2006年12月10日

第54回NHK杯戦3回戦第2局△小林覚九段対▲王立誠九段








 解説:片岡聡九段
 □黒9〜17、白二線に石が4つ来てやや辛い。
 □白18と下辺を安定させる。
 □黒19は白19との差で、根拠に関して厚い手。しかも白22まで先手だ。
 □黒23と意欲的。
 □白24、26にも黒27ツケと積極的に立ち働く。これは参考図Aを避けた。
 □白28、黒29、白30いずれも気合。
 □黒35は参考図Bを嫌った。
 □黒37は白38と手をかけさせても(右下隅の黒はワタリはなくなったが、手残り=後に黒61で実現)先手で、黒39と双方の根拠の急所に挟んで白を攻め上げては好調。
 □その後も、黒41カケ〜白60と中央へ頭を出していく。
 □そして一転、黒61に戻る。以下69まで右下隅黒は余裕の生き。
 □白70ツケ〜黒77は相場と見た。
 □白78、黒79、白80と布石に戻った。
 □黒81は落ち着いた一着だが、白にゆとりを与えた。参考図Cと厳しく打ったほうが白に余裕を与えなかっただろう。
 □黒81と緩んだので、白82、84が強烈。
 □黒85とトんだが、白86とおさまっては白も一息。
 □黒87〜89は強情。参考図Dは黒戦える、と見ている。
 □そんな黒の強気が通り、白90〜黒99となれば黒も一丁前。
 □白100と地を稼いでバランスを保ち、更に102、104と上辺を固めて密かに上辺の黒を狙う。
 □ところが黒はちゃっかり107と地を確保して、上辺は手抜きして「攻めてみろ」と居直っている。
 □白112と出るが、黒も113とカケて下辺の白との攻め合い、力勝負を挑む。
 □このあたりで形勢判断をしてみようか?まずは参考図Eを見ていただきたい。
 □これは黒は、左した隅〜左上20目(マイナス白からの切断の味)+中央6目+右下8目(マイナスコウ味)+上辺0目(マイナス攻め味)+右辺0目(マイナスコウ味)=計黒34目(プラスマイナスもろもろの攻め味、コウ味)。白は、左辺4目+右辺7目(プラスコウ味)+中央3目(ただし現在一眼しかないのでマイナス攻め味)+左上半目(プラス上辺黒の攻め味)+上辺11目半(プラス上辺黒の攻め味+右辺のコウ味)+アゲハマ1目+コミ6目半=計白33目半。したがって、ころころの攻め味、コウを別にすれば黒半目良し、という際どい状勢。
 □ところが、手番は次が白ということからすると、おいおい、がんばれば白悪くない、ということかい?
 □つまり、これは死活がらみの極細のヨセ勝負という、ヒジョーに微妙な玄人っぽい展開か?
 □ここで白が打った114、116が逆ヨセっぽい渋い手。左辺黒の切り味をかすかに狙い中央白の眼形の足しにもしている。参考図Fあり。
 □対して黒123はあからさまな(素人っぽい、ともいえる)地の手で逆ヨセ3目位かしら?
 □しかし、この白=虚、黒=実の交換が曖昧だった形勢をはっきり黒良しとした気配がある。
 □その後、白128〜130と黒を分断する構えを見せたが、黒131が黒の巧手で、白134と頑張ってはみたものの黒135、137と抱えられると中央の力関係ははっきり黒>白ということがあからさまになってしまった。白134では参考図Gがやむをえないが、これでも黒悪くない(黒半目良しbyあおきひとし)だろう、という。
 □実戦は白134とつっぱったため、黒139、141の強打を招き、白154、155と切り結んだものの、中央の白が生きていないため白156(もしくは下辺での目持ち)がやむをえない。
 □そこで157と中央の白の種石四子を取られては碁は終わった。
 □先番黒が先着の利を生かして主導権を握った展開だったが、中盤81の一着が甘く、碁はもつれた。
 □その後細かいヨセ勝負になったが、大ヨセの大事な局面で白は下辺で厚がった緩着を放って碁を険しくし、更に中央で128、130と勝負手をかけたが黒に131と冷静に咎められると一度は134と踏ん張ってはみたものの、もちこたえることはできず、最後は土俵を割った。
 □167手完 黒中押し勝ち

 参考図A 黒27でヒキは







 白から28と二間に詰められて黒受けようがない

 参考図B 黒35ヒキ







 黒35でノビは白二子を取れるが、右下隅が白地となる。

 参考図C 黒81厳しいツケ







 これは黒うまく行き過ぎだが、まああり得る図ではある。

 参考図D 白90押さえからの左上隅での戦いは黒歓迎







 この戦いは黒やれる、と主張している。

 参考図E 黒113で形勢判断







 黒は、左した隅〜左上20目(マイナス白からの切断の味)+中央6目+右下8目(マイナスコウ味)+上辺0目(マイナス攻め味)+右辺0目(マイナスコウ味)=計黒34目(プラスマイナスもろもろの攻め味、コウ味)。白は、左辺4目+右辺7目(プラスコウ味)+中央3目(ただし現在一眼しかないのでマイナス攻め味)+左上半目(プラス上辺黒の攻め味)+上辺11目半(プラス上辺黒の攻め味+右辺のコウ味)+コミ6目半+アゲハマ1目=計白34目半。したがって、ころころの攻め味、コウを別にすれば黒半目良し、という際どい状勢。

 参考図F 白124では二眼つくることもできた







 いざという時にはこのように中央の白が下辺にもう一眼作る余地があるので、124〜127は先手でも保留する、という考え方もあった。

 参考図G 白134妥協







 う〜ん、黒半目良しだなw









 
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2006年12月08日

第54期王座戦五番勝負第4局△山下敬吾棋聖対▲張栩王座 250手完 白中押し勝 2006.12.7








 解説:加藤祐輝五段(日経新聞解説)、武宮正樹九段(NHK BS2『囲碁ジャーナル』)、中野寛也九段(『週刊碁』2006.12.18)
 □この碁はなんといっても左下の黒の生き死にに尽きる。
 □白58の前に白56黒57の交換をすばやくきめたのがさりげないポイント。これは白からいつでも利く権利のようだが、それをほったらかしで単に白58を打つと黒から参考図Aの手段がある。
 □白62のアテに黒63と切り込んで白64からここに出入り65目の決死の大コウが始まった。
 □天下コウであるが、黒は「生きるぞ」という近所コウが無数にある。
 □一方白からはこれといったコウ材がない。
 □だから黒は強気である。黒69では参考図Bとコウを解消する選択もあった。参考図Aでは生ぬるい、と黒は見ている。
 □で、黒71の時、白は白72と打ってコウを解消した。59のところのツギではないのは先々黒の63と61の石が一線のワタリで渡られると白左下隅がコウ(参考図C、黒D-1、白B-2、黒B-1の糞粘りをあらかじめ予防して、白59ツギによるコウ解消よりも手堅い意味がある)になるのを怖れたためだ。
 □ということは、黒71はコウ材になっていないわけである。つまり、黒71では参考図Dと強硬に打って、あくまでコウを続行するしかなかった。
 □黒89(〜99)では参考図Eと下辺の黒を生きるのが普通。
 □ラストチャンスは黒91で参考図F。ここで白が黒の眼つぶしにくるなら、黒101のサガリという奇手があって黒はどうしても生きてしまう。
 □実戦は黒99と下辺を放置して左上に黒が先着するも、下辺に莫大な借金残り。
 □白100〜112で中央〜左上の白模様が巨大に。
 □黒113〜123と荒らしにいく。
 □左上の黒の生きが白からのコウ材になるので白も、早速126と置いて下辺のコウを始める。
 □何と言っても下辺は出入り65目の大きなコウ。白にとっては花見コウだが、黒は負けるわけにはいかない。
 □お互いのコウ材の数が勝負を分ける。黒163は必死のコウ材減らし。生き死に、攻め合いの手数を読んだ上での最善手か。ここでプッツンして参考図G左上隅白との攻め合いに出ても黒負け。
 □白184はコウ材が少なくなってきた白の頑張りである。従って以下参考図Gという収束も考えられた。この図は上辺、下辺ともに生きて黒は不満がない。
 □だから、今度は白が和解案を拒否して白186と上辺にコウ材を立ててコウを続行する。これで黒白ともに「コウ続行⇒コウ材は自分の方が多い⇒コウに勝算アリ」という意図が明らかになった。つまり、黒白いずれかが、コウ材の計算を間違っている!
 □黒199では参考図Hと受けて問題なかった、と加藤P。
 □
 □

 参考図A 白56単コスミ







 アテツギがないとスミの白があっという間に取られ。

 参考図B 黒69でコウを解消する








 これは白が右下を取り、黒が左下を生きるフリ替わり。いい勝負。左下の白の生きが残っている、中央の黒が切れる、など不確定要素があり、黒はこれでは満足しなかった。

 参考図C 白72でコウツギは固いようで、かえって後に左下隅白地への手段を残す








 左下の黒が生きた後、左下隅の白には黒から一線のワタリからのコウにする手がある。

 参考図D 黒71断固コウ続行







 黒71と挑発しても、コウを続けるしか黒は仕方がない。

 参考図E 黒89(以降99までには)は黒生きる一手







 左下黒には、何しろ出入り65目のコウが残っているので早い段階で生きておく一手。そうすれば白もシチョウを今の内に抜く位だろう。そうすれば黒は左上に先着できた。実践は近所コウが多いだろうとタカをくくって後に大事件が起こった。

 参考図F 黒91ラストチャンス







 単に黒91立ちで白全体を狙っている。ここで、白が92と置いて黒の眼を奪いにくれば順に図のように打って101サガリが冷静で、これで白の眼形の関係でコウは白勝てない⇒黒生き。

 参考図G 黒163で攻め合いは黒負け 







 黒163で左上隅の白と攻め合いにいくのはどうしても黒勝てない。

 参考図H 白184なら







 白184としたので、黒185とコウを取った時白186黒八子取り、黒187白四子取りというコウ解消=フリ替わりの可能性もあったのだが、この段階では白が拒否して、コウを続行した。

 参考図H
 
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2006年12月03日

第54回NHK杯3回戦第1局△山下敬吾棋聖対▲趙治勲十段 256手完 黒6目半勝 2006.12.3OA








 解説:武宮正樹九段
 □なんてことはない布石であるが武宮正樹九段は白7は悪手であるという。すなわち、白12とハサまれた形は黒7が弱い、大きくとりこまれそうな形で「白優勢」とまで断言してはばからない。このあたりの武宮Pの発言は「成る程これがプロの感覚というものか」という“論理を超越した”一流プロの説得力がある。
 □ここで黒はどうするのか、と見ていると、黒13コスミとおっとりとしている。
 □黒13はなんかすましすぎのようで我々アマチュアには評判がよろしくないと思うのだが、武宮はこれがプロの常識、ふつうの感覚であって、「黒13と打って黒が悪いとするならば、それは黒13が悪いのではなく、それまでの黒の打ち方に問題があったのである」とする。
 □だから白14は参考図Aが正着だという。模様は囲うのではなく、広げて戦いを迎え撃つ(あるいは、敵が手をつけなければ大きく囲う)のが碁法だと武宮Pのご託宣。う〜む、真理っぽい。
 □ところが最近の山下敬吾Pは地に辛い。(張王座との王座戦第3局でも山下敬吾の地、張栩の模様という展開になり、山下が地で先行して勝った。)で、白14と上辺の白模様を地に囲った。
 □これには、武宮は露骨に嫌な顔。参考図Bを示し、模様をみみっちく囲うのは良くない、と諭す。なある。さすがは宇宙流本家宗元だけのことはある。
 □したがって白20で手抜きして左辺に割り打ちしたのは、白最悪の参考図Bを避けた賢明な態度ではあるが、黒21と押さえこまれては白良いわけがない。
 □白22〜黒25とまた大場先行の布石に戻る。
 □ただし、趙は黒23という一着にかなりの考慮時間を使っている。黒23はプロなら第一感のところであり、彼がその他の可能性を探ったということは、この23、25の時点で、趙が形勢必ずしも良くないと考え(もっとも、趙自身は昔から悲観派ではあるが)、方針変更した気配がある、という。
 □白26と衆目の一致する急場>大場であり、この時点で白はまだ形勢良かった。
 □だから、黒27〜33は必然として、白34とここで戦を起こす必要は白なかった。(形勢が良い時は、程々の互いに安全な別れで折り合いをつけ、盤面を狭くして安全裡に終局へと向かうのが大人の態度である)
 □黒35〜51となれば右下で(眼のない黒白大石同士の)けっこう厳しい戦いが勃発している。
 □白52は頑張った一着。参考図Cなら普通。
 □黒53は参考図Dのハネといきたい所をグっと押さえて自陣(右辺)を強化して相手に手を渡した“落ち着いた”(武宮)渋い一着。参考図Eの最悪の結果を事前に防止しているのである。
 □白54が黒53に輪をかけた好手。参考図Fの手段を防いでいる。
 □したがって、白54〜68は白が言い分を通した形。
 □黒71は参考図Gとの差で非常にデカイ。
 □白80はやりすぎの感がある。
 □というのも、80で愚直なノビは参考図Hのワタリがあって気がすすまなかったのが災いした。
 □なもんで、白80と頑張ったが、黒81、85とカケられては95まで黒一手勝ち。
 □攻め合いの途中、黒103は固ツギなら確実だが実戦のようにカケツギをするなど、対局者はよく読んでいる。武宮はそれについていけず117になるまで「白逆転か?!」などと騒いでいた。もっとも視聴者の我々だってそれにツラレて固唾を飲んでいたのだから、囲碁(録画)中継番組としては面白いミモノ(番組)にはなっていたんだから、武宮を責めるつもりはない。白114の時点で黒の次の一手を予想できる人は、早碁の生放送中という条件を考えればアマチュアにはいないだろう。
 □中央の攻め合いは右辺の白五子が取られて“つぶれ”たかにみえるが、白も一応はシボリ形ではあり、勝負は決したわけでもない、という。
 □まずは左上を白118〜黒125と脱出しておいてから、白128に詰め右下からの黒の大石に狙いをつけた!
 □だがその前に参考図Jの手段を講じておく必要があったのである。これなら黒の生きはむつかしかっただろう、と思われる。
 □かくして、白128の前のいつでも利くはずの白から中央黒へのノゾキを逃して、逆に黒から129にツケられてはここに節がついて、黒のシノギが楽になった。
 □黒147となれは、ここは連絡形である。勝負はこの瞬間に決まった。黒勝ちである。

 参考図A 白14模様は囲わない







 上辺の模様は囲うのではなく、広げるのが碁法というものだという。黒が例えば15などと動き出しても、それを迎えて敢然と戦うべし、というのが武宮Pのご宣託だ。この図は一例であるが、上辺は戦いになり、結果しろ半目白良し。w

 参考図B 白14悪手







 白14と上辺の白模様をいったん囲い始めてしまうとその保身的な態度の延長線上、@黒15〜白18A黒19〜白22が必然となり、 けっかとして白の上辺の白地は右上と左上の双方がコリ形という結果になっている。つまり黒23までの結果全体的に白地は上辺に偏在し黒模様は全体にバランスよく遍在という対照的な展開になっている⇒黒圧倒的に良し。

 参考図C 白52の頑張り







 白52は参考図Cのカカエが普通であるが、そうすると黒53のアテを利かされて中央の力関係が黒>白になるので、実戦は白52のツッパリで頑張った。だが、それが後に起こる大事件の伏線となる。

 参考図D 黒53ハネは







 黒53ハネの直接行動はこのようになればウマいが、実際はそうはならず、参考図Dの展開を辿ることが予想される。

 参考図E 黒が53ハネなら白54はカワす







 黒53ハネ白54トビの交換は、実は黒の強化にはなっておらず、四つに交わっての中央決戦になると、なんと右下、右辺ともに黒は絡め取られる仕儀に陥るのであった。

 参考図F 白54の効果







 白54があるおかげで、59の切りには60からこの黒が取れている。

 参考図G 実戦の黒71はこの図との差が莫大







 右辺は黒ぼやぼやしていると、このように白から四線で封鎖される可能性があった。だから、実戦の黒71〜白76は先手でそれを防いだ機敏な処置といえる。

 参考図H 白80でサガリは?







 この単純なサガリでも以下白86まで黒の二線でのワタリは許しても上部の黒四子を取っているようだが、黒87で逆に取られ!

 参考図J 白128はひとつ中央をノゾいてからなら事情は違っていた!







 中央の黒にノゾキがひとつあれば、中央と左辺の黒は繋がらず、黒は死んでいた?!














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2006年11月27日

第47期王冠戦挑戦手合△山城宏王冠対▲松岡秀樹八段 183手完 黒中押し勝








 解説:彦坂直人九段
 □黒1〜白4とまあオーソドックスに並行形に四隅を占めた布石から、最初の戦いは左上で始まった。黒5〜白16は一段落とは言いがたい。黒はここを先手で切り上げていったん右上のシマリを急いだが、この左上は黒も仮普請だし、上辺白も黒7の逃げ出しがある。早晩どちらがここに先に戻り策動を始めるかが序盤戦の焦点になる。
 □だから、ついで始まった右下の戦いも両者先手を取って程々でここを切り上げ、左上に戻るかを意識した攻防になっている。つまりここは主戦場ではないのである。
 □白20で参考図Aの定石は黒25の開き詰めが右上の黒模様形成にあまりりもぴったりでしかも先手では、白としても避けたい。で白は20、22とナダレた。
 □黒23の小ナダレを選んだのは、白が28でノビて下辺を間に合わせて白30の切りに回りたいのであるが、この場合は左上の配石が黒からのシチョウ有利にできているからである。参考図B参照。
 □白が実戦のように28のカケツギで応じるならば、黒29と隅を押さえて隅の攻め合いは黒の一手勝ちである。それでも白は30と切って38まで中央の形を作るしかない。
 □黒39のツケからの中央突破とは過激であるが、プロなら“一目(ひとめ)”の常識的な対応だという。黒は39〜51と中央を裂いたものの“団子石”っぽいし、左右の白はともに眼形豊富に見えるが...(うん、「それがシロートのアサハカさ」とはすぐに分かるんだけど)
 □その中央のふたつの白のうち、まずは右辺。黒51に白52の応接は黒から59のところのカケが先手でぬりつけられるのが嫌だから穏当なところかと思ったが問題だったらしい。
 □というのも黒55のシブイ一間詰めが先手で以下27、59までビタビタ先手で利かされては、ボクシングでいう“カウント8のダウン”を喰らったようなものでほとんどkO寸前の「殴られっぱなし」状態(彦坂P)。
 □下辺も後に左下との関連で85、89、91を先手で利かされるとほとんど“眼ふたつ”状態。かくて黒39〜51の中央突破効果は、右辺と左辺で白を壊滅的な打撃を与えていることが証明される。「プロ野球で言えば満塁ホームランでも逆転できない5点差をつけたようなもの」と彦坂P。
 □この碁を第二次世界大戦に譬えて見ると主戦場である欧州(大西洋)に気を持ち乍ら、“ついでに火事場泥棒”の気分で「先手で処理してしまおう」と安易に考えた枢軸国側が対岸の太平洋で“ちょっかい”を出して(日本が)太平洋戦争を起こしたようなもの、と言える。ところが、連合国側の親玉アメリカが本気を出して(?!)応戦したので、むしろこちらが世界征服戦略の主戦場となったキライがあり、「アメリカにとって、ヨーロッパの戦はいわばEUの内乱のようなものであり、長期的に見ると国境線は元に戻る類の対岸の火事である」事を読み誤まる(詰まり第二次世界大戦を世界を二つ(連合国と枢軸国)に割っての世界戦争と考えた)日本の判断ミスだった、ということになるね。
 □なもんで、白60まで右下の戦いをいったん切り上げて上辺61に回った黒のココロは「この碁の勝負は右下で決着した。とすれば大勢が決した後の左上は黒が命運をかけて戦う主戦場ではもはやなく、辺境地帯での彼我の小競り合いに過ぎない。だとすると、あたら事を荒立てるよりも、ほどほどの応酬で収めて、事態の沈静化を計ったほうが賢い」と言うことであり、それは「金持ち喧嘩せず」の態度であり、「5点差があるなら、アウトをひとつずつ取っていけばよい。4点与えても1点差で勝てばよい」という高校野球のような“守りの野球”だと彦坂P。
 □だから61〜67、白68には69〜73と戦線を二ヶ所ともに退けて敵に実質を与えてもしっかり自陣の守りを固め、下辺77、79に回れば天下の形勢は黒良しと見ている。(黒183で下辺は白の大石がまだ二眼無い!)明るいな、世界の盟主アメリカ。暗いぜ、ニッポン。

 参考図A 白20定石







 白20〜24の定石は黒25の開き詰めが右上の模様化に資して立派過ぎ(白にとって)論外。白26で24から中央に一間にトブのは如何にコミがある白とはいえ後手だしおっとりしすぎている。かといって、放置は黒から中央への打ち込みが強烈で根こそぎ追い立てられる。

 参考図B 白28ノビ、30切りは黒からのシチョウが成立する







 このシチョウが成立するので、黒は小ナダレを選んだ。




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2006年11月26日

第54回NHK杯2回戦第16局△石田芳夫九段対▲結城聡九段 187手完 黒中押し勝 2006.11.26OA








 解説:林海峰名誉天元
 □「結城の攻めを石田がどう受け止めるかが勝負の見所」と解説の林海峰名誉天元の一点予想に違わぬ展開になった。
 □黒1、3、5は張栩流。
 □白は8、10と忙しく打つ。
 □黒11は感じが出ている。参考図Aが黒の注文。白は黒5、9の二間開きが既にある上辺には向かいたくないのだ。
 □それで白12と白は三々にツケた。
 □黒は参考図Bでも良かったが更に厳しく15と切り込んでいった。
 □「白22では隅は捨てて参考図Cと切るのがよかった」と林。
 □白22〜31は白が隅に縮こまり(この隅は後に参考図Dのセキがあり、白は0目。)、10〜20の四子も孤立して面白くない。
 □白は32〜38と右上を治まりに出るが、黒は37など、この白を狙っている。
 □更に白40〜49と補強するが、中央に首を出している、というだけでまだ治まったわけではない。白42ではこう一路左にツケて、左右の白の連絡を計りたいが、それは参考図Eで無理。それに左上の白四子がほぼとられたのは痛い。
 □白50〜52と布石に戻る。
 □黒53〜60は相場か。
 □黒61の消しから84まで右辺の黒地が白地に化し、右下まで連結した白地では黒は身を喰われた形ででかしてない風。特に黒81〜83としたのは白82と立たれて上に穴が空いているのが辛い。で、85の補強が必要となり黒後手。
 □とすれば白も警戒して86、88と中央を補強するが、この時89がその白の足元を掬ってなかなかの手と林。で、白も94と一手かける。
 □左下黒95から戦いが起こる。途中白108がなかなかの巧手で下辺の黒の生死が問題に。
 □黒113、115のツケヒキに白白106とおとなしく接いだのが軟弱。この手では参考図Fとして左辺の黒模様を脅かすほうが優った。
 □白128〜149は白による黒模様の荒らしというよりは、黒をふたつに裂いての攻撃。
 □左辺の黒が分離されてヒヤリとしたが、白も150の備えが必要で、黒151〜155で連絡してほっと一息。
 □で、白も156と本体と連絡。
 □ここで黒は157に手を戻す。
 □で白も用心して158、160と手入れをしたつもりだが、黒163を利かしての167〜171の攻めが強烈!置き一発で白は頓死の憂き目に。白172で参考図Gと頑張りたいがダメ詰まりで白が落ちる。
 
 参考図A 黒11は黒の注文







 これは白が、先に黒5、9と黒が二間開きで先着している上辺に展開する構図で面白くない。

 参考図B 白12でも







 白が12と隅につけてきても黒は15と中央を押し切りたいところ。

 参考図C 白22は切り







 白22はこう切ってみたかった。隅は黒地になっても合計で25目以下でたいしたことない。その調子で白は一目を抱えて全体的にバランスが良い。

 参考図D 隅はセキ







 左上隅にせっかくつくった白地だが、実はこれは手残りで、将来61〜65としてセキにする手(両後手5目)があるので実質2目半の値打ちしかない。

 参考図E 白42は無理







 白42まで行って左右の白が連絡できればいいのだが、黒43で左辺は取られ。


 参考図F 116では左辺の取り







 白116では左辺の二子を取っているのが左上の黒模様を脅かして厚かった。実戦は黒117と白118の交換で左辺の黒が厚くなっている。

 参考図G 白172の頑張りは白頓死







 白172で一路左に打って眼形を確保したいが、それは173〜175でダメ詰まりの白死。










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2006年11月25日

第26期NECカップ準々決勝第3局△小林覚九段対▲王銘ワン九段 249手完 黒1目半勝







 
 解説:大竹英雄九段
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posted by 蔵山車理恵蔵 at 20:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 囲碁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月19日

第54回NHK杯囲碁トーナメント二回戦第15局△瀬戸大樹六段対▲蘇耀国八段 黒1目半勝 2006.11.19OA








 解説:王銘ワン九段
 □左下、白8からは急戦志向。
 □ただし、白30は受け身か?黒31に白32以下38まで序盤から二線を這わされるのはツライ気がする。
 □白40として、黒41の詰めに42と一間に受けるのも黒43のノゾキが見えていていやな感じがするものだが、白はじっとこらえてアマシ戦法で一貫している。
 □黒45〜白50は布石に戻った感じ。盤面で黒が先行するペースは変わらない。
 □黒51では参考図Aと上辺をしっかり生きておけば普通だった。
 □右辺は急場、左辺は大場というわけで、右辺>左辺だったのである。
 □黒51の押さえは白52黒53と先手を取られて白54のハサミツケで左辺が半分ガラガラになっているので疑問だった。
 □もし左辺を打つなら一本四線の押しで相手の意向を打診するのが高等テクニック。参考図Bである。
 □「黒55のケイマも後々の白からの出切りを見られていやな感じ」と王銘ワンP。
 □ただし、黒57のハサミツケから63のコンビネーションが旨く、69から73まで敵にズラリ二線を這わしては黒の模様は一丁前だ。
 □となれば白も74から76が必争点。
 □ここで黒77、79と反発したのが生きた碁の面白い所。参考図Cは白のアマシ作戦の術中にはまるとみたのであろう。この展開は解説の王銘ワンPと同見解だった。なるほどねぇ、それがプロというもんですか。へぇ〜。アマには百年経っても思いつかない発想である。うんうん。
 □白76〜88と思わぬ展開で、コウになる。
 □なお、黒89白90という交換=コウ材の使い方は参考図Dという手段を無くし、ヨセとしても損をしている意味で悪手。
 □(白、既に左辺で得をしている)とすれば、白は必死になって右上のコウを争う必要はないわけで、白はコウを譲っても92で充分と言っている。
 □黒93からの攻めにも白94〜104と素直に受けて悪くない、と見ている。
 □黒105アテからコウを大事にしようとするが、白106といったんは取るが、後は110〜116と譲歩して“柳に風”。
 □黒17、19位の被害なら白120としっかり生きて、これは最早黒のリードは吹っ飛んでいる、らしい。形勢不明か、白悪くない、といったところ。
 □黒121〜白130は権利だが、黒131の備えが必要、ということで中盤戦は黒の後手で終り、白132から白先手のヨセ。
 □白140は厚い手。一路上までいけるが、大事を取った。瀬戸Pは「白良し」と見ている。
 □黒149は逆ヨセ5目(=10目の価値)。
 □白150〜161を先手で決めて、162が待望のハネ(後手10目)。
 □黒165、167は白166、168のピッタリの反撃を喰らい、黒は得をしていない。黒169から白178まで白を脅かすが、中央の黒には欠陥があり、179と一手補強しなければならない。
 □が、黒179は不完全であって、白180からの出切りが成立しては、形勢はっきり白良し、となった。
 □ところが、「形勢(白)良し」となったとたんに“震える”のが碁の面白いところ。
 □勝利を確定したつもりの白186(と黒187の交換)が大悪手。黒189(両先手一目)を黒から決められたことと合わせてここで都合三目の丸損。これではいくら形勢良しといっても、そこはプロ同士の碁、差は僅かだったからこれで逆転である。
 □結果黒1目半良し、だったから186では素朴に195の所に一目抜いておけば白が逆に一目半勝っていたことになる。参考図E。実戦は黒193、195、197を全て先手で利かされて大損をしているのがわかるだろう。
 □ということで、瀬戸Pは“あまし戦法”でこらえて対局を制したせっかくの碁を
肝心の詰めで“窒息”(王銘ワンP談)させ、あたら大魚を逸した。
 
 参考図A 黒51は平凡に右辺受けが急務







 黒51では、右辺の一間受けがぬるいようでも@右上黒地を固めAコスミの両ノゾキで右辺の白を狙っているので先手、白も52と一間トビしている位が相場であろう。そこで、黒は左辺か上辺か、それとも下辺か考えることができる。

 参考図B 黒51は押したかった







 黒51はこうひとつ押して様子を窺いたかった。左辺は実戦51のところと実戦54の白からのハサミツケが見合いになっているので、その前にこのように四線を押して左上隅白の出方を伺うのが高等戦術なのだ。この図は黒の理想形だから、白も引きまでは付き合うだろうが、黒53ツケに白54下受けと付き合ってくれるとは限らない。(パスもあり得る)したがって、黒は51と白52の交換だけで、先手で左辺の黒を強化させたことに満足して、再び急場の右辺に戻ることも考えられた。

 参考図C 黒77受けはつらい







 黒77で右上隅を受けるのが常識的だが、これではせっかく築いた下辺と左辺〜上辺の黒模様が幸便に消され、囲い合い〜荒らし合いとなり、黒が主導権を握った戦いの碁ではなくなり、白のコミがものを言う展開である。だから実戦の黒77はプロなら当然の反発、らしい! すっごいねぇ。

 参考図D 左辺は黒から狙いがあるところ







 今すぐに、というわけではないが左辺は黒から白の目を奪い、左辺の白一団を攻め上げる狙いがあるところ。それを黒89、白90のなにげない交換で無くしてしまったわけだから、このコウ材は黒大悪手だったのである。

 参考図E 白186はヨセの最後の大場左辺ポン抜きで楽勝だった







 白186は中央の両先手(最低一目)を利かしてから左辺の一目をポン抜くのが正しいヨセの手順だった。こうしてみると、実戦の黒186の地点がどちらから打ってもあまり価値のないダメ場に近いことが分かるだろう。ちなみにこの図は白半目勝ち。どこかで白一目損をしているらしいw





posted by 蔵山車理恵蔵 at 15:04| Comment(0) | TrackBack(1) | 囲碁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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