2006年10月09日

第31期名人戦第2局 布石検討








 これが名人戦第2局である。この碁では、勝敗よりも張栩名人の序盤の趣向が話題になった。というのは、この碁は白番高尾紳路本因坊が勝ったのだが、黒の敗因がはっきりしなかった。そこで序盤まで遡って、黒5が敗着ではないか、とする意見さえ出てきたのである。というのは、序盤の黒17までで既に黒悪い、ということである。

 参考図A 序盤の17手






 これが実戦の進行、序盤の17手である。黒15がケイマなのは、部分的な定石の二間開きだと左下隅とのバランスが悪い、と見て高く四線に開いたのである。参考図B参照。

 参考図B 黒15定型の二間開きはこの際適切ではない






 黒15で二間に開くのは、左下隅がこういうシマリになっている現状では、左辺の黒が低いから、盛り上がりに欠けるので、こうは打てない。つまり逆に言えば、左下隅の黒のシマリが参考図Cならば、これは黒の理想形なのである。

 参考図C 黒15黒の理想形






 左下隅がこのシマリなら、左辺は二間に開いてバランスがいい。

 では、問題となった黒17までを手順を変えて図を作ってみるとこうなる。

 参考図D 黒17まで手割り






 この手割り図で行くと、黒9の“開きヅメ”に、王銘ワン九段は「何ともいえない違和感を感じる」という。というか、黒9は「この段階で、ここに打つプロはまずいない」とまで云い、黒9を悪手と断定する。
 張の主張は、この図に従えば、「黒9は普通の大場とし、その後の黒11〜白16を黒からの利かし(黒13の一子にはまだ充分活力がある)」として、トータルで黒がでかしている、というものである。
 しかし、王銘ワンPはこれは利かしになっていない、と言う。何故なら、左辺の黒三子は形が不安定で白の攻撃目標にされる恐れがある。つまり、

 参考図E 左辺には白18の打ち込みがある






 タイミングの問題はあるが、左辺は白から18の打ち込みが厳しい。この白18と左辺に先着してある黒の三子はほぼ互角であり(あるいは、三子、手をかけただけの効果は出ていない)、とすれば左辺は黒白逃げ逃げの、生き生きになって黒の左辺大模様構想はウサンムショウしてしまう。
 かといって、黒17で上辺はほったらかしにしておいて、左辺に更にもう一手かけるのは、
 
 参考図F 左辺を確定地に






 これなら左辺は黒の確定地だが、序盤の忙しい時期に左辺に7手もかけて確定地がたったの33目というのでは、明らかに“コリ形”。白18のカケからできる上辺の模様のほうが立体的で豊かなのは一目瞭然であろう。

 実はこの碁には変遷がある。

 参考図G 前史






 これは、張栩が昨年優勝したLG杯の決勝戦。無論、張が黒番であり、快勝した。いわば張栩流必勝布石である。
 ところが、

 参考図H 高尾の対策






 LG戦の二ヶ月後、本因坊挑戦手合で挑戦者の高尾紳路九段が打ったのが白10の割打ち。この割打ちは白は左右の二間開きを見合いにして楽生きなのに対し、黒は先に打った3、の二子が治まる形がない、という“泣き”形にされているのがわかる。
このいきさつがあったので、今度の名人戦で上記参考図Aの改良型を編み出した、とかんがえられる。つまり、これはそういったいわくつきの因縁を背負った張-高尾序盤パターンだった、ということになる。それが黒悪い、となると大問題で、それじゃ、「左下の配置如何によっては、左上への一間高ガカリそのものが悪手」という結論が出かねないという状況になってきたようだ。

 この論争の決着はできれば、この名人戦あさっての10.11-12の第3局(張栩の黒番)の実戦でつけてほしい。

 なお、補足すればあおきひとしの見解は、「黒15までの布石は特に黒が悪い、というわけではない」


 参考図J
 参考図K






 実戦の黒17のハサミは白16からの二間開き詰めの余地を与えてぬるかった。このようにもっと狭くハサんで白を攻めれば、戦いの主導権は黒にあり、下辺へも黒が先にまわれるので形勢は黒良し、である。


posted by 蔵山車理恵蔵 at 16:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 囲碁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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